郵送請求にもキャッシュレスを

福岡市の取り組みを視察しました

住民票や戸籍証明書などを郵送で請求する際、多くの自治体では、手数料として郵便局で購入した「定額小為替」を同封する必要があります。しかし、定額小為替の購入には手間がかかり、発行料金も必要です。また、海外に住んでいる方にとっては、手数料を支払う方法そのものが大きな壁になっています。
こうした課題を解消するため、福岡市では令和7年10月から、郵送請求におけるクレジットカード決済を開始しました。今回の行政視察では、導入の経緯や利用状況、実際に運用して見えてきた課題などについて伺いました。

市民の利便性向上と海外からの請求に対応

福岡市がキャッシュレス決済を導入した大きな目的は、市民の利便性向上です。
従来は、申請者が郵便局で定額小為替を購入し、申請書と一緒に郵送しなければなりませんでした。特に海外からの請求では、日本の定額小為替を用意することが難しく、日本国内の知人に支払いを依頼するなどの対応が必要になる場合もありました。
オンラインでクレジットカード決済ができるようになったことで、こうした負担が軽減され、海外在住者を含め、より利用しやすい仕組みになりました。

既存システムを活用し、追加費用を抑えて導入

福岡市では、株式会社グラファーが提供するSaaS型の電子申請システムを活用しています。
このシステムは、行政手続き全般のオンライン化を進めるため、令和3年度から導入されていたものです。その決済機能を郵送請求にも活用することで、新たに大規模なシステムを構築せずにキャッシュレス決済を始めることができました。
職員が専門的なプログラミングをせずに申請フォームを作成・追加できる「ノーコード」の仕組みになっており、今回の手続き追加に伴う新たな費用は発生していないとのことです。
システム全体では、導入時に約2,500万円、年間の運用に約1,500万円の費用がかかっています。また、クレジットカード決済には3.5%の決済手数料が発生し、その分は市の歳入が減る形で福岡市が負担しています。

利用件数は徐々に増加

令和7年10月の開始から令和8年7月までに、キャッシュレス決済を利用した郵送請求は1,378通でした。
令和8年7月だけでは261通となっており、利用は徐々に増えています。一方、福岡市全体の郵送請求は月に約1万件から1万1,000件あるため、現時点ではキャッシュレス決済の利用はまだ一部にとどまっています。
利用者からは「便利になった」という声が寄せられており、サービス向上という点では確かな効果が表れています。

利便性の一方で、職員の事務負担は増加

今回の視察で特に印象に残ったのは、利用者にとって便利になる一方、行政側の業務は必ずしも効率化されていないという点です。
申請者はオンラインで手数料を決済した後、申請書などの必要書類を郵送します。福岡市では郵送請求業務を民間事業者に委託しており、受託事業者が申請書と決済情報を照合した上で、証明書を発行・発送しています。
しかし、キャッシュレス決済の導入によって、これまでにはなかった次のような作業が必要になりました。

  • 申請書とオンライン上の決済情報の突合
  • 決済額に過不足があった場合の追加徴収や返金
  • 決済実績と証明書発行データの照合
  • 毎月の決済実績に基づく収入の調定事務

申請者が申請書にキャッシュレス決済を利用したことを記載していない場合には、決済情報の確認に時間がかかり、証明書の発送が遅れることもあります。
また、オンラインで決済を済ませても申請書が郵送されてこないケースが月に1~2件ほどあり、申請者と連絡が取れない場合には返金手続きが必要になります。
現在、毎月の調定事務は職員1名で担当していますが、従来の業務に新たな確認・精算作業が加わり、職員の負担は増えているとのことでした。

横浜市への導入には、規模を踏まえた検討が必要

横浜市でも郵送請求業務を民間事業者に委託していますが、その取扱件数は1日約2,500件、年間約62万件に上り、福岡市の約4~5倍の規模になります。
そのため、横浜市で同様の仕組みを導入する場合には、市民の利便性だけでなく、膨大な件数の決済情報をどのように正確かつ効率的に照合するかが重要になります。
さらに、決済手数料による歳入の減少や、確認・返金・調定などに必要な人件費、委託費の増加も考えなければなりません。こうしたコストが積み重なれば、現在の証明書発行手数料を維持できるのかという問題にもつながります。

「デジタル化=業務削減」とは限らない

行政手続きのデジタル化は、市民にとって便利で分かりやすいサービスを実現するために欠かせません。特に、郵便局へ出向くことが難しい方や海外在住者にとって、キャッシュレス決済は大きなメリットがあります。
一方で、オンライン決済を既存の郵送請求に追加するだけでは、紙の申請書と電子的な決済情報を人の手で結び付ける作業が残り、かえって事務負担が増える場合があります。
大切なのは、決済方法だけをデジタル化するのではなく、申請、本人確認、決済、証明書発行、発送、会計処理までの一連の流れを見直すことです。
福岡市でも、データ照合や調定事務の基準を明確にし、申請書の記載方法や利用案内を改善するなど、処理の効率化と遅延防止に取り組んでいくとのことでした。

今回の視察で得られた実務上の課題や工夫を横浜市とも共有し、市民の利便性向上と職員の負担軽減を両立できる仕組みについて、引き続き検討していきたいと思います。